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60章 思考と意志の障害: 統合失調症

Chapter 60: Disorders of Thought and Volition: Schizophrenia

1.イントロ

知覚と言語に関する厳密な調査における神経生物学の成功は、思考と気分、その障害における生物学的な調査も惹起した。この章と次の章では、思考と気分の最も深刻な以下の4つの障害について調べる。統合失調症とうつ病と躁病と不安状態である。これらの障害は思考、自己意識(self-awareness)、知覚、感情(affect)、意志(volition)、社会的相互作用における障害をもっている。

科学的に挑戦的であるのに加えて、精神病は大きな社会的重要性がある。統合失調症の10%におよぶ人が自殺をしてしまう。それより多くの人はホームレスである。精神薬理学的薬剤が出現する前は、統合失調症と感情障害(affective disorder)は米国の病院入場の半分以上を説明していた。現在でも、全入院の30%を統合失調症が説明する。

2.精神疾患は古典的診断基準を用いて診断できる

医学では「病気(disease)」という用語は一群の症候群(symptom)と特定の原因からなる症状(signs)のことを指し、決められた経過を辿って特定の結果をもたらす。脳の他の病気と同じく、精神病の分析は症状の詳細な観察を必要とする。理想的には、診断は2つの付加的な要因にもとづく:
(1)明白な「原因因子(causative agent)」(遺伝的異常、ウィルス・細菌の感染、毒、腫瘍、ストレス)
(2)もっともらしい「病理学的機序(pathogenesis)」(原因因子が病気を生み出す明らかな機構)

訳者注:
symptom=病気の症状で患者が自覚しているもの
sign=病気の症状で患者にはわからなくても医者によって発見されるもの

残念ながら、ほとんどの他の病気と違って、ほとんどの精神病の原因と病理学的機序は、いまのところ(as yet)、確実にはわかってはいない。そのため、精神病はかなりの程度、20世紀初頭の医学の他の領域にあるものとしてグループ分けされている。医学の他の領域において、病気は組織のシステムに従って一度グループ化された:肺、心臓、胃腸系、などである。同様に、精神病も四つの主要な精神系(mental system)が影響を受けたとしてグループ化された:認知、感情(affect)、知性、社会行動。これにより、以下のようにカテゴリー化された:
(1)認知の障害(統合失調症と精神錯乱(delirium))
(2)気分の障害(disorders of mood)(感情障害(affective disorders)と不安状態)
(3)学習、記憶、知性の障害(精神発達遅延(mental retardation)、痴呆(dementia))
(4)社会行動の障害(人格障害)

訳者注: mental diseaseとmental illnessとpsychiatric disorderは全て精神病と訳した。これらに違いはあるのだろうか?

3.統合失調症はいくつかの関係した障害とにている

4.統合失調症の治療に有効な抗精神薬(antipsychotic drug)はドーパミン系に働く

1950年まで、統合失調症の効果的な治療はなかった。最初の有用な治療はクロルプロマジン(chlorpromazine)という薬であり、この薬は興味深い歴史を持っている。フランスの神経外科医Henri Laboritは外科手術の前に体験する不安は、肥満細胞(mast cell)から大量のヒスタミンを放出させると考えていた。そして、ヒスタミンは突然死を含む、よくない麻酔の副作用に関わっていると考えた。ヒスタミンの放出を抑えるために、Laboritはさまざまな抗ヒスタミン剤を試し、患者を穏やかにするものを見つけようとした。試行錯誤の末に、クロルプロマジンは特に効果があることを見いだした。

Laboritはクロルプロマジンの穏やかにする効果に感銘を受け、この薬はより大きな効用を持っていると考えるようになり、すぐに精神状態が扇動されている患者も穏やかにするだろうと予測した。1951年にこの考えがJohn DelayとPierre Denikerにより試され、彼らはクロルプロマジンの大量投与は非常に扇動され攻撃的になった統合失調症症状や躁鬱症状をもっている患者を穏やかにした。

クロルプロマジンははじめ、過度に落ち着かせることなく患者を穏やかにする精神安定剤(tranquilizer)として働くと考えられていた。しかし、1964年までに、クロルプロマジンとフェノチアジン(phenothiazine)類の他の関連薬は統合失調症の精神症状において特定の効果を持っていることが明らかになった。それらの薬は、妄想(delusion)・幻覚(hallucination)・その他の思考の障害を軽減ないしは消失させる。(Table 60-2)また寛解(remission)を経験したことのある患者は、寛解期間中も抗精神薬を服用し続けることで再発(relapse)を減少させられる。

Table 60-2

これらの発見は、定型向精神薬(typical antipsychotics)といまは呼ばれる分類の薬の概要説明(delineation)を導いた。この分類の薬には(クロルプロマジンにはじまる)フェノチアジン(phenothiazine)、ブチロフェノン(butyrophenone)(はロペリドール(haloperidol))そしてチオキサンシン(thioxanthene)を含む。(Figure 60-6)更に最近では、非定型抗精神薬(クロザピンclozapine、リスペリドンrisperidone、オランザピンolanzapine)と呼ばれる第二の分類の薬も統合失調症の治療に有用であるということも示された。非定型抗精神薬は定型抗精神薬よりも陰性症状(と認知的障害)を治療するのによりよく、錐体外経路(extrapyramidal system)への副作用がより少ない。
訳者注: 薬の名前のカタカナ訳は訳者の独断です。それからantipsychoticを抗精神薬と訳した。向精神薬と抗精神薬は音は同じだが逆の作用を持つ薬のことなのだろうか?訳者にはこの違いがわかりません。

Figure 60-6

どのように定型と非定型の抗精神病薬はそれらの活動を起こすのだろう?逆説的だが、定型抗精神薬の細胞活動の最初の手掛かりは、副作用の分析から得られた。それらの薬はしばしばパーキンソン病に似た症状を生み出す。パーキンソン病とはドーパミンの欠乏から起こる障害の一群である。(Chapter 43)Arvid Carlssonの提案どおり、たくさんの研究が多くの抗精神病薬がドーパミン受容体をブロックすることを発見した。(Figure 60-7)この発見は、つまり過剰なドーパミンの伝達が統合失調症の病理の重要な部位を占めているかも知れない、ということを示唆していた。

Figure 60-7

ドーパミン作動性(dopaminergic:ドーパミンを放出する細胞の性質のこと)の伝達が過剰かどうかを決定するために、薬がその効果をどこで受容体に及ぼすかを同定することが重要である。少なくとも6種類の主要なタイプのドーパミン受容体がヒトの中で合成(cloned)されている:D1、D2、D3、D4、D5。(Figure 60-8)各受容体のサブタイプのアミノ酸配列は、Gタンパク結合性受容体(G protein-coupled receptor)に特徴的な領域である、7回膜貫通性領域(seven membrane-spanning region)をエンコードする。(Table 60-3)

Figure 60-8

Table 60-3

D1とD5(D1bとも呼ばれる)受容体は、Gタンパク(Gs)というアデニリルサイクレース(ドイツ語読みだとアデニリルサイクラーゼ;adenylyl cyclase)にくっつく。このタンパクはATP(adenosine triphosphate)を環化してcAMP(cyclic adenosine monophosphate)にする(Chapter 13)。これらの受容体は主に大脳皮質と海馬のニューロンに(D1は尾状核にも発現するが)発現しほとんどのタイプの抗精神薬とは親和性が低い。

定型の抗精神薬はD2受容体と高い親和性を持っており、従って、これらの薬の主な作用場所と考えられている。実際、定型抗精神病薬の統合失調症患者に対する臨床効力は、D2受容体への親和力と密接に相関している。(Figure 60-9)

Figure 60-9

D2受容体は関連する受容体ファミリーの一部である(D2グループ)。これにはD3とD4も含まれる。これらの受容体三つとも、アデニリルサイクレースを抑制することが可能である。(Figure 60-8)これらの受容体は、尾状核(the caudate nucleus)、被殻(the putamen)、側坐核(the nucleus accumbens)のニューロンに特に高レベルで発現している。そこだけではなく、扁桃体、海馬、大脳皮質の一部にもD2受容体は存在する。D2受容体は尾状核と被殻に発現しているため、これが錐体外路系の抗精神薬の副作用に関わっていると考えられている。(Chapter 43)扁桃体、海馬、新皮質、もしかしながら薬理作用場所として考えられる場所である。
訳者注:尾状核、被殻、側坐核は大脳基底核の一部であり、尾状核、被殻、腹側線条体の三つをあわせて線条体(striatum)と呼よばれる。線条体は基底核の入力部に相当する。側坐核は腹側線条体の一部である。

クロザピンのような非定型抗精神病薬は、D3に結合し、D4受容体に対してより効果的に結合する。この2つのD2受容体のサブタイプは、主に辺縁系(limbic system)(Chapter 50)と皮質で発現する;基底核では弱くしか発現しない。この選択的な分布はなぜ非定型抗精神病薬が錐体外路系に副作用を及ぼさないのかの説明になるかもしれない。D2とD3受容体の両方には、さらなる興味が注がれている。何故なら、それらはドーパミン作動性ニューロンそれ自体に存在しているからであり、受容体は細胞体と末端の両方にある。そこで、それらの受容体は抑制性自律受容器(inhibitory autoreceptor)(Chapter 14)として働き、ニューロンの発火頻度と末端の活動電位によるドーパミンの放出を調整している。
訳者注:受容体というのは神経伝達物質を受容するものであるから、普通は後シナプス細胞にある。すなわち、ドーパミン作動性ニューロンの反対側にあるのが常である。そうすることでドーパミン作動性ニューロンから放出されたドーパミンを後シナプス細胞は受け取ることができる。

5.ドーパミン作動性のシナプス伝達の異常が統合失調症の症状と関連していると考えられている

6.ドーパミン作動性伝達の異常は統合失調症の全ての側面を説明しない

7.まとめ


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製作:野澤真一(メールを送る

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